白い皿に鎮座した黄色い巨体。中腹を彩る一筋のケチャップ。
オムライスが登場すると、「ワァーイ」と子供のようにはしゃぎたくなる。
いくら美食を重ねても、僕にとっては永遠のゴチソウなのだ。
ゴチソウだからあばたもえくぼ、つい点が甘くなる。
どんなオムライスでも許したくなる。
しかしそれでもただ一点、卵だけには妥協はしない。
薄焼卵が破れてるなんざ論外で、ケチャップライスが透けて見えるのも許すまじ。
あくまで外はふんわりで、内はしっとり半熟で、ケチャップライスをいたわるように包んでほしい。
そんな理想が「たいめいけん」にある。
艶やかな美肌をスプーンで割れば、ご飯と混じり合った半熟卵がピカリと輝く。
パラリと炒めたご飯一粒一粒に絡んだケチャップは控えめで、卵の甘みが生きてバターの香りが立つ。
厳選した卵とバターによる豊かな品があって、僕はそれを邪魔せぬようにかかったケチャップをつけずに食べ終えてしまう。
千六百円は高いかもしれないが、プロの料理人の技と手間がかけられた、十分な値打ちがあるオムライスだ。
「YOU」のオムライスも卵を尊重した技が生きている。
この店のスタイルはケチャップライスにオムレツを乗せた、通称「たんぽぽ風」。
ご飯に着地したオムレツは、しわ一つない淑女のような美しさ。
甘い香りとともに流れ出る半熟卵は、混ぜられたクリームによって豊かな味わいとなり、ふわりと空気を含んで、ムースのように消えていく。
味つけが控えめなケチャップライスとの相性もよく、ゆっくりと味わいながら食べたくなるオムライスだ。
そして最後まで形が崩れず淑女の威厳を保つ麗しきオムレツは、まさに家庭では再現できぬプロの仕事である。
もっと卵を!と望むなら、プロの技によって進化したオムライスはいかがだろう。
「ラ・プティット・シューズ」のシェフは、溶き卵とトマトソースを炒め合わせたご飯を薄焼卵で紡錘型にくるみ、オマール海老の殻でとったソースを合わせた。
トマトソースの上品な酸味や卵とご飯の甘味が渾然一体となった上に、深い旨味を持つエビのソースが絡んでうっとりとなるオムライスだ。
異なる食材の調和と共鳴というフランス料理のエスプリを盛り込んだ傑作だが、卵が命であるというオムライスの基本ははずしてない。
半熟卵の魅力と甘い香りに満ちあふれていて、なんとも心が和むのである。
やはりオムライスの命は卵。いくら形が変化しようとも、ふわりと焼けた卵と半熟卵とご飯の競演があってこそ、人を魅了し続けるのである。