ウッフ・アン・ムーレットに邂逅した。

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ウッフ・アン・ムーレットに邂逅した。
今から40年前、この料理を初めてパリで食べて、驚いた。
ゆで卵(ポーチドエッグだけど)が、堂々とレストランで料理の一皿となって、それにお金を払う人がいるんだと。
日本では朝食以外、茹で卵やポーチドエッグを外でお金を払って食べるという習慣はなかったからである。
卵が一品料理になるんだと、好奇心だけで頼んでみた。
ベーコンが入れられた赤ワインのソースは、深い酸味があって、そこに黄身の甘みが混じると、異国の女性の匂いがした。
なにか、どきりとさせられたことを覚えている。
いまでも彼の地のビストロでは出されていると思うが、日本ではあまり見かけない。
これだけフランス料理が浸透しても、やはりレストランでポーチドエッグにお金を払おうと思う人は少ないのだろう。
だが先日おもいがけずに会った。
再構築されたウッフ・アン・ムーレットは、赤ワインソースと秋トリュフをまとっている。
なにより玉子が素晴らしい。66度で40分加熱したという玉子は、黄身も白身も最善の状態で佇んでいる。
黄身は最大限の甘みで舌に流れ、白身はふんわりと優しい食感となって、しなだれる。
そこへ、甘酸っぱく濃密な、それでいてキレのいいソースが混ざり合う。トリュフが香る。
久々に出会ったウッフ・アン・ムーレットは、やはり異国女性の色香があって、それをより膨らまして、僕の心を静かに揺さぶるのであった。
赤坂「FURUYA」にて。