テジャス・ソヴァニシェフは、謙虚で誠実な人である。
インド人が皆そうなのかはわからないが、日々料理の研究や食べ歩きをしながら、日々精進しようと努めている。
日本に来て、日本の食材を使いながら、新しいインド料理を創り出す。
相当なプレッシャーがあったろう。
しかし数年経った今は、食材の力も熟知し、自由に羽ばたこうとしている。
小さな小さなアミューズから、胸をときめかす。
「マンゴーとスパイスのチャート」 と題されたそれを、一口で食べると、まずマンゴーの香りが漂い、塩気が来てからクミンが香り、最後に再びマンゴーの甘味と酸味が顔を出した。
こんな小さな料理にも、旅がある。
異国への憧憬を抱かせる。
ローストクミンとブラックソルト、フレッシュとドライマンゴー、海ブドウにマンゴームースを合わせたのだという。
次は冷たいスープだった。
トウモロコシとバターミルクのスープだという。
飲めば、バターミルクの豊満に包まれたとうもろこしの甘い香りが広がり、気分が穏やかになる。
だがその中に隠された様々な香りが、食欲を刺激し始める。
とうもろこしを超えることないように生ミョぷに計算されたスパイス使いが心憎い。
カンドヴィの冷たいスープとクミン,ターメリック、、コリアンダー、ガーリック、とうもろこしを炒めてピューレにしバターミルク加えたのだという。
飲んでいくと小さなパスタが現れた。
ひよこ豆と小麦粉練り合わせ他パスタで、そのほのかに甘い味わいがとうもろこしの優しさに溶けていく。
微かに感じる酸味は、ヨーグルトとタマリンドで、酸味が生きるよう微かに苦味も加えているのだという。
かように,ソヴァニシェフの料理は繊細でエレガントである。
ズワイガニのドーサと海老のギーローストもタンドール窯で焼いたサーロインも、一筋縄ではいかない香りと味の纏わせ方をしていて、そのめくるめく愛と香りに翻弄されるのだった。
それでいていやらしくない。
多くのスパイスを使うがさりげなく、どこまでも自然な丸さがある。
だからこそエレガンスを感じるのだろう。
そして最後はスペシャリテのビリヤニである。
今回はオックステールのビリヤニであった。
表面を覆った生地を突き破り、スプーンを差し込むと、凛々しいオックステールが現れた。
主役にふさわしいダイナミズムだが、それだけに目を奪われないでほしい。
米は数段階に分けて調理され、味の層ができている。
だから飽くことことがない。
玉手箱のように味が変わり、飛び出して、我々の心を深く捉えるのだった。
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