イボイボした皮に

食べ歩き ,

イボイボした皮に鼻を近づけて匂った。
ほんのりと甘い。ブドウのような香りがある。
皮に唇を当て、そっと噛み潰した。
瞬間、どっとジュースが流れ込む。
皮の渋みが来て、小気味のいい酸味と甘みが入り混じる。
その酸味はベリーというより小夏に近い。
液体はサラサラとしているのだが、しばし口に留まって、口腔を翻弄する。
甘く酸っぱく苦い余韻を、長く残しながら消えていく。
これはワインだ。
「ヤマモモは大きく赤黒いのはそのままで、小さいのはジャムだね」と、高知の農家の方が説明してくれた。
高さ7~8メートルになるので、脚立を使って取るのだが、危険性も高く、毎年死亡者が出るという。
しかも6月、10日ほどしか実がならない。
高知の県花とされているヤマモモの、短い収穫時期に、命を懸ける。
たまたま護国寺の庭になっているヤマモモを見た。
深い緑の中に点在して実る赤い身は可憐で、食べてごらんなさいと誘っている。
中にあの渋みと甘酸っぱさが宿っているのかと想像すると、獲りたい衝動が走る。
手の届かぬ身がじれったく、ただただ指と唾液をくわえながら、見守るしかなかった。