静岡「成生

アジ。鯵。あじ。

食べ歩き ,

「手前が今からお出しするもので、こちらが夜にお出しするものです」。
そう言って2匹のアジが並べられた。
堂々たる見事な体躯のアジである。
それだけではない。
目は澄んでいて、体表も、生きているかのように輝いている。
こちらから見て手前の夜のアジは、カマに包丁が入れられているが、奥の昼のアジはは入れられていない。
「見てください。胃袋です」。
差し出された胃袋には、桜エビがみっちりと詰まっていた。
ミネラル豊かな駿河湾で、旺盛に桜エビを食らったうまみを想像して、喉が鳴る。
やがて、天ぷらになって出された。
「さあ食べてみろ」。
血合いがてらりと光って、誘いかける。
ああ。凛々しい。
アジの天ぷらを食べて、普通は感じない食感に目を丸くした。
筋肉を断ち切る勢いがある。
いや命を断ち切るコーフンがある。
血合いのいやらしさは微塵もなく、噛んで噛んでいくと、うまみがのっそりと顔を出し。膨らんでいくのだった。
静岡「成生」にて。