「感謝のカタチ」vol2

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「感謝のカタチ」vol2
前号まで:大阪梅田「森清」。80になる女将と息子二人の店で飲んでいると、80近い男が一人で入ってきた。

「あら?あらあ?」。おかみさん清さんの顔が輝きだす。
「お母さん、帰ってきたわ。もう何十年ぶりかな」。
「懐かしい。よう来てくれましたわ。あんた曽根崎の店の頃からやったからね。お互い若かったなあ。なにか飲む?」
「いやちょっと、飲んできたさかい」。
「ようけ飲んできた顔してるわ。飲んだて、コーヒーかぜんざいか? ハッハッハ」。
「まあビールでも飲んで。あんたと仲良かった、○○さんはどないしてる?」
「ああ、あいつはいってもうた」。
「そうですか。あの子は、ほんまにええ子やったな」。
昔話を交わしながら、お母さんは「嬉しいわあ、懐かしいわあ」を繰り返す。
名物「サラダ」が来た。日本で五本の指に入ると思う、ポテトサラダだ。
味がこれ以上でも以下でもなく、キリッと決まり、胡瓜、人参、紫玉葱が入るが、恐ろしいまでに極薄、極細で、しかもシャキッとして、芋の食感を引き立てる。
「仕事のしてある」ポテトサラダは、次男の仕事だ。
「おいしいなあ。何回食べても」というと、お母さんは笑顔で、
「息子が店やってくれてるんで、こうしてやっていけるんですわ。でもね。この子ら、自分で産んだとは思えないの」と言う。
「え? なんで」と聞くと
「産んだのやなくて、与えられたものやと思うの。だからほんまに感謝してる。毎日お空に向かって、今日という日をいただいてありがとう。て、感謝してます」。
「だから、マイナスのことは、絶対言うてはあかんと、思てるの」とも言われた。ポテトサラダの味が深まって、酒に人情が染み込んだ。
帰り際だ。
「また寄らさせてもらいます」と言うと、
「お客さんが来てくれたから、今日は何十年ぶりにええ人と出会えましたわ。ほんまにほんまに、ありがとな」。
女将さんは満面の笑顔で、何度も頭を下げ、見送ってくれた。