「今焼きあがりました」。

そういって、京都「クレメンティア」の田淵シェフは、焼き上がった肉を見せにきてくれる。
肉が好きな人なのだろう。焼くのが楽しくてしょうがない人なのだろう。
子供のように目が輝いて、屈託なく笑っている。
牛のヒレ肉は、一口噛んだヒレ特有の味のきれいさの中から、噛むほどに脂の甘味や肉の猛々しい香り、藁の香りが湧き出して、ヒレ肉を食べているのではない、コーフンが体を巡る。
ハツは鉄分を滴らせ、茶路めん羊牧場の子羊は、澄んだ滋味を舌に流し込む。
こよなく肉を愛すシェフのことである。煮込みやパスタも、肉への愛に溢れていた。
マルを使った煮込みの「ペポーゾ」は、歯の間でほろりと崩れ、赤ワインや肉のエキスが丸く溶け合った味わいの中から、潜んだコラーゲンの甘みが滲み出て、思わず人間を笑わせる。
ギアラのパスタは、レモンの酸味によってギアラの甘い脂の魅力を引き立て、炭粉のパスタと馴染ませる。
肉万歳。
今度はもっと一皿の量を多く、ガツンと食べたい。
そう思わせるとこもまた、肉好き料理人たるゆえんである。