「カンテサンス」にて

食べ歩き ,

「いい仔猪が入ったんで、煮込んで見ようと思ったんです」。
珍しい。岸田シェフの煮込み料理には、めったに出会うことがない。
「シヴェ」といえば、野獣を赤ワインで煮込み、血や時によっては肝でリエした料理だが、シヴェが本来持つ重厚さが、いい意味で微塵もない。
まだ血は通っている。
まだ肝は動いている。
雑味が一切なく、うま味が澄み渡り、仔猪そのものをいただいているような、純真な味わいがある。
清らかで、少しだけ、ほんの少しだけ艶っぽいのである。
ここにデカダンスはない。
山を吹き抜ける風と土の香りと、樹々の恵みがあるだけである。
それこそ他にはない、まさに彼そのもののシヴェなのである。
下仁田ネギのサバイヨンソース、プチヴェール、ひろっこを添えて。
「カンテサンス」にて。