この男が肉を料理すると、なぜエレガントになるのだろう?
正肉も内臓もいやらしさは微塵もなく、命のしずくを垂らしながら、「そっと私を噛んで」と囁くのである。
しかもすべてジビーフである。
8皿、すべてジビーフである。
野山を本能のまま駆け巡る、草の香りがする牛である。
噛んで噛んで、我々を上気させる、凛々しい牛である。
だが食べた我々はうっとりとし、目を閉じ、官能をくすぐられて落ちていく。
フィレのポワレはあ、ただ柔らかいふぬけた食感ではない。
フィレの味わいの優美さの中に、微かなクリックリッと弾むような歯ごたえがあって、それが心を鼓舞するのである。
それは広大な土地を駆け回る牛だからこそ生まれたものなのだが、優美を感じながら鼓舞されちゃあたまらない。
心が掴まれ、深い魔力に埋没していく。
あるいは小腸である。
野生の牛らしい、脂がまったくない驚異的な小腸だが、それをジビーフのコンソメとモロヘイヤと合わせてある。
ああ、こんな優美な小腸料理があるとは。
コラーゲンが溶け込んだスープは、飲んだ瞬間にズシンと舌を揺らし、その中で軽快に小腸が舞う。
そしてモロヘイヤの青い香りとジビーフの草の香りが、共鳴する。
それを感じた瞬間、我々は骨抜きになる。
小腸をひたすれ噛み噛みしながら、へへへとだらしない顔になって笑うだけである。
「ラフィナージュ」高良シェフのジビーフ特別料理は、別コラムを参照してください