「おぅ八公」
「なんです?」
「なんです?じゃねえだろ。行ってきたんだよ。たけだ。たけだ」。
「たけだ? あーあのエリーゼの後にできた不届きもんねえ。で、どうでした?」
「どうもこうもねえ。すごくいいんだな」。
「なにが」。
「サービスのお姉さんが小顔で、笑顔がかわいくて、よく気が付いて、俺ゃあ惚れた」。
「そりゃおれも行かなくちゃ。じゃなくて、大家さん。肝心の味はどうなんす」。
「まず安い。とんかつ(リブロースのデミグラソースかけ)が千円。チキンカツが800円。安い」。
「それはエリーゼ値段ですな」。
「そうなんだ。それでついうれしくなっちゃって、限定20食、もち肉和豚ロースかつ定食1320円なんてえ高級なんを、頼んじまった」。
「さすが大家だ、太っ腹」。
「トッピングで、ミニメンチ320円も頼んだぞ」。
「えらいっ」。
「何が偉いのかわからんが、ちょっと頼み過ぎた」。
「で、どうだったんですか」。
「それが聞きねえ。例のお姉さんが、もち豚の脂には塩が合いますからお試しくださいってんで、バリ島の塩と藻塩を持ってくるんだ」。
「珍しいですな」。
「肉は甘みがあって、なかなか良かったぞ。あんだけ忙しいのに揚げ上がりも良くてな。ただ肉とのバランスでは、もう少し衣が細かい方がいい」。
「大家さんもうるさいなあ」。
「ポテサラは普通、出来合いのようだな。それでメンチもミニというのに結構でかい」。
「肉汁が甘くてよく出来とる。ちょっと下品なデミグラもご飯を呼ぶしな」。
「ほう、よさそうですな」。
「大きなチキンカツ定食920円というのもあって、隣の30代二人連れはそれを頼んでた」。
「それは?」
「いやあ二人とも出てきた瞬間声出して笑ってね。なにしろ皿からはみ出してんだ」。
「俺が行ったらそれだ。ところで肝心のエリーゼとの関係はどうなってんです」。
「おお、例のお姉ちゃんに聞いたと思いねえ。そしたら『同じエリーゼです。揚げ物とカレーだけの店にしたんです』だと」。
「そこで大家さんのことだ、ビーフトマトだけは復活してくれといってくれたんでしょ」。
「いや言わなかった」。
「なぜ?」
「だって喋り方が可愛かったんだもの」。