マダムシルク
突風に雨が降りしきる中、大学時代の友人と痛飲した。
場所は池袋立教通りのマダムシルク。
ここは僕たちの喫茶店であり
居酒屋であり
憩いであり
恐怖であり
憧れであり、
拠りどころであった。
美人店主さっちゃんは暗いカウンターの中で、いつも優しく微笑み、厳しく諭す。
野菜が一杯入ったナポリタンや
きしめん使った焼きうどんや
昆布の佃煮がアクセントになった味噌仕立てのおじやは
僕らの朝飯でもあり、昼飯でもあり、ディナーでもあり、夜食でもあり、酒のつまみでもあった。
変わらない。
おじさんたちに白髪が増え、薄くなっても変わっていない。
三十数年変わっていない。
いまだに敗れていない酒量新記録を達成したのもここだ。
ある日家にいると、
「おいお前のために今ボトルを入れたぞ」という電話が先輩から入った。
絶対服従である。
「ハイお願いします」といって電話を切ると、タクシーを飛ばした。
店に入るとホワイトのダブルボトルが肩口まで減っている。
「お前のボトルだ。全部飲んでいいぞ」
「ありがとうございます」
飲むわ飲むわ、飲まされるわ飲まされるわ
二時間でボトルは空になったという。
というのは途中から記憶がないからである。
さっちゃんにあとで教えてもらった。
気がついたら先輩の家で寝ていた。
とんでもない二日酔いで、死体と化していた。
マダムシルクは近々ビルの改装とともに移転するという。
想い出はが一つ失せた。
新しい門出を祝う。