世界一おいしいおにぎりはなんだろう?そ
れは母親の握ったおにぎりではなかろうか。
どんな顔で、どんな気持ちで食べるのかな、おいしく食べてくれるかなと想像しつつ、おいしくなれ、元気になれと、思いを込めて握るおにぎり。
愛の重みをずしりと感じ、母親の顔を思い浮かべながら食べるおにぎり。
これに勝るものはない。
だれしもそうしたおにぎりを食べ、顔をほころばした思い出があるはずだ。
だからこそコンビニで主力商品となり、デパ地下の売場に列ができ、居酒屋でつい頼んでしまうのである。
そんなおにぎりの世界がいま熱い。
デパ地下、カフェ、駅構内、コンビニ、お米屋さん、居酒屋、専門店と、様々な場所でおにぎりがしのぎを削っている。
どこでも水準以上のおにぎりに出会えるようになって、うれしい限りだが、強いて僕の理想を上げれば、「ご飯はおいしくふんわりと、作り手の顔が見えてくる」という三点に絞られる。
そんな理想を、四十年以上も与えて続けてくれているのがぼんごである。
すし屋のようなカウンターに座り、具を選び頼むと、女将さんが愛想よく答え、木型にご飯と具を乗せてから、手に持ってぎゅぎゅっと握る。
熱々のおにぎりを口一杯にほおばれば、ほろりと口の中で崩れ、ご飯の甘みが広がっていく。
米粒の間に適度に空気が入っていながら、形が崩れない。
握り具合の按配がよいのだ。
僕の好みは、鮭とタラコに高菜の油炒め。
大ぶりなので二個も食べれば腹が膨れるが、困ったことに後をひき、つい食べすぎてしまうおにぎりでもある。
ご飯のおいしさならたぬきも人後に落ちない。
店のガラスケースには具の表示だけで、おにぎりの姿はなく、注文するとその場で炊き立てのご飯を握ってくれるのである。
海苔の合間からピカリと光を放つご飯。
たまらずかじりつけば、甘い芳香がふわりと立ちのぼって、ほろっとご飯が崩れる。
具の塩気とご飯の甘みがほどよく調和して、「うまいなぁ」としみじみつぶやいてしまう。
そんなおにぎりである。鮭やタラコ、梅干しといった定番もいいが、割烹が経営しているだけあって品のいい味に仕立てられた、じゃこの山椒煮や鳥そぼろもぜひ試してほしい。
デパ地下では重吉本店がいい。
本店をすすめる理由は、名人といわれた元店長の技を継承した握り具合にある。
木型を使っていながらしっとりとした握り具合で、吟味されたご飯の甘みが生きている。
そんな魅力を楽しむには、まずは具も海苔もない、塩握りを是非。
そのシンプルなおいしさに、必ず笑いがこみ上げてくるはずである。
写真はイメージ
ぼんご3910−5617
たぬき
重吉 東急東横店で