腰の曲がったおばあちゃんが、一人おにぎりを握っている。
「焼きおにぎりありますか?」
「まだ出来てね」。
「じゃあ後30分したら来るから、一個お願いします」。
「あい、わかった」。
今まで何個のおにぎり握ってこられたのだろう。
店を始めて55年、86歳になられるという。
その握る姿は、踊りの名人のように淀みなく、温かみが滲んでいる。
握ったおにぎりに、胡麻と鮭をまぶし、七輪で焼く。
カリリ。
焼きおにぎりに歯を立てると、音が響いて、もっちりとした、甘い米が現れる。
おばあちゃんの大きな手で優しく握られた米は、口の中ではらはらと舞う。
炭火で焼くので、中はいつまでも熱く、齧るたびに、湯気上がる。
一個180円。
この横山商店〈商店といっても2坪ほどの掘立て小屋だが)の横山はるえさんが握るおにぎりは、今まで何人のお腹と心を、幸せで満たしてきたのだろう。
私たちは、このことを忘れてはいけない。
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