鉄板の上で、丸腸が踊っている。
身をよじり、小刻みに震えながら、リズムを刻んでいる。
時折テコで抑えられると、「キュー」と声を上げる。
それは、食べられる喜びに震えているようだ、と思った。
ここは赤坂、広島風お好み焼き屋の「きんさい屋」。
麺がなんともうまい焼きそばやお好み焼き、とんぺい焼きなどが主流だが、鉄板焼きも、数多く揃えている。
その中の一つ、「丸腸味噌だれ焼き」を、ぜひとも油料理ラバーにお奨めしたいのだ。
丸腸とは、ご存じ牛の小腸で、通常では筒状の真ん中を開き、コプチャンとかコテツ、ヒモなどと呼ぶ。
一方、開かず、ツルンとした内側を裏返して外にし、外側の脂を包み込んで筒状に処理したものを、丸腸という。
この内側となった外壁には、みっしりと脂がついているのだ。
同じ内臓でも、大腸162kcal、直腸115 kcal、ミノ182 kcal(百gあたり)に対し、287 kcal。
しかも開かないので、脂が溶け出さず、しっかりと内部留保されるというワケだ。
さて、踊る丸腸に、おいしそうな焦げ目がついたところで、味噌だれを投入。
赤みそと白味噌、醤油、酒、みりん、砂糖などで練り上げられたタレを、からめれば、ジュジュッと威勢のいい音ともに湯気合が立ち上り、丸腸は観念する。
照りがいい。甘い匂いがいい。
コロンとした固まりを一ツ、箸でつまんで口に運ぶ。
味噌だれの甘辛味がまず広がり、続いて丸腸を噛みこむと、ふにゃりと舌の上で崩れていく。そして甘い脂が、一気に広がるのだ。
このふにゃりというか、クニュというか、たよりがいのない食感と、熱を通して強まった脂の甘みがいい。
なにかこう、人間の嗜好を堕落させるような危うさがあって、誰もが素直に「うまいなあ」と呟やいてしまう。
しかも味噌だれという追い打ちもあって、やめられなくなる。
お相手には、ビールやサワーや日本酒よりも、芋焼酎。中でも香り高く、後引く甘みを持つ、赤霧島がいい。
丸腸味噌だれを食べ、すかさず赤霧島を飲む。
すると口腔いっぱいに広がる脂感が、その余韻だけを残してさらりと消え、また一つ丸腸へと箸が伸びる。
ほかの人にとられたくなくなるので、銘々人数分頼む方が賢明だ。
まあこうして、ふだんは肴にするのだが、おかずとしても活躍できるのではないかと思う。
七味をかけ、添えられたキャベツの千切り共にとご飯に乗せ、掻き込む。
スイマセン。丸腸おかわり。