白いオムレツ

食べ歩き ,

今朝オムレツを作っていたら、突然数年前にインドで食べたオムレツを思い出した。
こういう思考回路は、どうなっているんだろう。
ならば、思考を放置しないで書いたほうがいい。
デリーからアグラに向かう電車の中での話である。
朝5時に電車はデリー中央駅を発車した。
やがて陽が登ると、黒服のパーサーが現れて、無言でミネラルウォーターを配る。
今朝カミさんと喧嘩したのか、彼は終始無言で、不機嫌である。
こんな安月給で、やってられねえよという顔つきである。
インド人の顔は濃いので、不満が倍増している。
水を飲みながら、新聞と雑誌をめくっていると、トレーに乗せた幾つかの小さい袋と紙コップが配られ、お湯の入ったミニジャーも置かれた。
袋の中は、2種類のクッキーとキャンディである。
むむう。なんという質素な朝食なのか。
クッキーは少ないがお湯はたっぷりある。寂しい思いで、読めもしない雑誌をめくって紅茶をすすり、30分ほど過ごしていると、新たな動きがあった。
さらなる朝食を、不機嫌くんが配り出したではないか。
つまり英国風に、クッキーとミルクティーで頭と胃袋を起こしなさいというわけなのであった。
朝食は、ほうれん草入りオムレツ、フライドポテト、グリンピース、オレンジジュース、パンにバター。
オムレツが白い。餌の関係であろう、インドの黄身は白いのである。
白いが、しっかり黄身の味がする。
だが気分が上がらない。黄色の卵料理を前にした時のような、胸騒ぎがない。
ケチャップをかけてみたが、さらに盛り上がらん。
病弱な人が出血したような光景になった。
これでオムライスを作られたら、たまらない。
人間はわがままである。味覚とは、味覚より視覚の方が優位的である、ということはわかっていながら、文句を言う。
また味覚とは、実に保守的なものなのである。
向かいのジャンレノ似のおじさんは、ベジタリアンらしくジャガイモのコロッケ。
その茶色がなんとも羨ましい。