料理において、1+1は2であり、時として、2.5や3になる。
しかし1+1が1になる料理があることを知った。
料理名は「噴火湾産毛蟹とトルコ産モリーユ茸のリゾット」という
モリーユ茸のフォンで炊かれたリゾットの上には、茹でた毛蟹とモリーユ茸が置かれていた。。
リゾットを一口食べる。
モリーユ茸の旨味が凝縮したフォンが米の甘みと抱き合い、舌にのしかかってくる。
森奥に引き摺り込まれる、怪しくも濃い旨味が脳幹を痺れさせる。
続いて蟹と食べるとどうだろう。
圧倒的なキノコのフォンに毛蟹はうまみを足して、倍増させるのではなく、優しさで引き戻す。
蟹の穏やかな滋味でキノコのうまみは後退し、ほどよい余韻となる。
春の日だまりに似た、麗かな気分を運んでくる。
するとまたリゾットの濃厚が食べたくなるではないか。
食べて、ううっとうめいたところで蟹を食べると、再び安寧が訪れる。
そんな感情の起伏に、酔いしれた。
食べ終わり、そのままの感想をシェフに伝えた。
するとシェフは、
「そうなんです」と言って、嬉しそうに微笑まれた。
六本木「パトゥー」にて。
1+1は1。
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