駅弁勝負 第86回 ラウンジ編

駅弁 ,

駅弁勝負 第66回
駅弁には必ず原材料名が、書かれている。
僕は最初にこれを見ない。
特に幕の内弁当の場合は、なおさ見ない。
開けて見える光景への喜びと、かじってわかる喜びを味わいたいからである。
エビフライともう一つのフライはなんだろう?
とんかつかメンチカツか、ハムカツか?
あるいは白身魚のフライか?
おっ焼き魚は、赤魚だな。
ご飯の横には菜の花か。
などと次々に発見する喜びがいい。
果たしてフライは、ロースカツであった。
ロースカツにはソースをかけてレモンを絞り、シウマイ用のカラシをつける。
鳥唐揚げには、醤油と辛子をつけ、赤魚にはフライ用のレモンを少し絞る。
はは、万全である。
しかしこうして改めて食べると、崎陽軒のご飯が美味しいことを実感する。
さてここはラウンジ、周りはラウンジに用意されたおにぎりやパンを食べる人ばかりであった。
ラウンジで駅弁を、それもわざわざ東京駅で買って持ち込む輩はいない。
これは完全なる勝利である。
しかしここに推定40代後半の男性がいた。
彼はクロワッサンと生ビールを取ると席に座り、なにやらカップを取り出した。
おおカップ麺か! と思ったがそうではない。
スープである。
パスタ入りクラムチャウダーである。
どこで買ってきたのだろう?
熱湯を注いで準備する。
スプーンで一口飲んで吐息を漏らし、パンを齧り、ビールを飲む。
その様が悠然として、品がある。
そして。
クロワッサンをスープにつけて食べ始めたのである。
パリ在住が長かったのか? それともイタリアか?
パンを浸す姿に無理がない。小さい頃から毎日やってましたという、自然体である。
その姿に、今日は負けたかと思い始めた瞬間、彼は席を立った。
パンの補充か?
これでいちじく入りパンを取ってきて、またスープにつけて食べ始めたら完全に負けである。
しかし手にしたのは、カレーせんのミニバック2袋であった。
まさか煎餅を浸すのか?
クリームスープとカレー、煎餅を出会わすのか?
フランス人はタルティーヌを浸すから、煎餅だっておかしくない。
そう思って見ていると、カレーせんには一切手をつけずに、スープを飲み干してしまった。
これは機内への手土産か。
すると彼はまた立ってグラスを取り、トマトジュースを注いだかと思うと、ビールサーバーへ移動し、生ビールを注いだ。
レッドアイである。
しかも、エビス、アサヒ熟選と並ぶ中で、一番軽いモルツを選ぶあたりも憎い。
席に戻ると、カレーセンをつまみにしながら、レッドアイをちびりちびりと飲んでいる。
さも、昔からやってますよと言いたげな、自然体で悠然と。