トーストの幸せ

食べ歩き ,

トーストの幸せを知ったのは、ロンドンだった。

大学時代に十日ほどホームステイをしていたとき、ホストファミリーが作ってくれたトーストの美味しいこと。

薄く、こんがりと焼けていて、バターの香り高く、食べれば軽快な音が響く。

しごくシンプルなのに、毎朝しみじみと感動してしまうのであった。

そしてこういう質素な料理にこそ、作り手の心根が素直に現れるということを教わったのである。

だが、普段日本では、トーストを料理としてはあまり意識をしない。

外食の場合はなおさらで、喫茶店のモーニングなどを何気なく食べてしまう。

しかし、ここにプロの心意気を感じさせるトーストがある。

 

「アロマ」が使うパンは、食パン界の重鎮、田原町のペリカン製。

ご主人は、約二センチ幅のパンをトースターに入れ、一定時間で取り出して裏返し、再び焼く。

焼き上がると、素早くバターを塗って目の前へ。

香ばしく焼き上がったパンは、表裏ともむらがなく焼き色ついて美しい。

かじればサクッと音がして、耳はタルト生地のように軽やかに崩れ、バターの香りが顔を包み、歯は、甘くもっちりとしたパンにめり込んでいく。

九センチ四方に込められたおいしさに、顔は緩み、すぐさまもう一枚と頼んでしまう。

 

まずは基本のバタートーストを食べ、次にジャムやチーズと進んだら、最後は、塩、マスタード、少量のマヨネーズを塗って、生タマネギとピクルス挟んだ、ご主人考案の、絶妙オニオントーストお試しあれ。

 

「アロマ」「バタートースト」 一枚八十円