てれん。
パンを抱きかかえるように、
チーズが垂れている。
その姿には、
「一緒においしくなろうね」という、チーズの優しさが溢れている。
「もちろんさ」。
厚切りトーストはそう応えて、どっしりと受け止める。
ピザトーストには、チーズとパンの、思いやりがある。
チーズも生地もソースも、本場のピッツァからは遠く、遠く離れている。
だがそこには、卑屈さがない。
どこか温かい。
「のんびり行こうよ」と、言われているような、ゆるい温かさがあって、懐かしい気分が漂っている。
相手を思いやる気持ちが生んだ、おいしさがある。
うららかな日が続くと、無性にピザトーストに会いたくなるのは、そのせいかもしれない。
では「さぼうる」に出かけて、「ピザトーストを下さい」と、頼もう。
水が運ばれ、塩とタバスコ、ナプキンと小さなフォークが運ばれる。
ふふ、楽しんで待つよ。
それがまた君の持ち味だもの。よぉく焼かれてね。
おや、70代の男性も、ピザトーストとクリームソーダを食べている。
母親と来た八歳ほどの男の子も頬張っている。店内の各所で、ピザトーストという幸せが咲き始めている。
さあ登場した。
堂々たる体躯が、胃袋を鳴らす。
所々に焦げたチーズが、「早く食べて」と、誘いかける。
フォークで垂れたチーズを切り、口をあんぐりと開けて食べれば、熱々に溶けたチーズのコクが広がって、思わず顔が崩れる。
チーズの量がいい。
たっぷり乗せられているので、存分にチーズのうま味を味わえる。
「お腹いっぱいになってもらいたい」。
そんなご主人の思いを受けて、パンは、オーブントースターで焼ける限界まで厚く切られている。
そんなパンは、ふっくらと歯を包み、ほのかな甘味を滲ませる。
そこへソースの酸味が入り交じり、チーズに隠れたハムやピーマン、マッシュルームが現れて、歯を喜ばせる。
だが具やソースは、出しゃばりすぎない。
チーズとパンの穏やかなる関係を、見守るように、そっと持ち上げる。
タバスコですか?
タバスコはかけません。
なぜなら、のほほんとしたこのおいしさを、辛さで邪魔したくないからね。
食べ方としては、置かれたその姿のママ食べるのもいいけれど、パンの耳を下側にして食べるといい。
下の歯がサクリとパン耳を突き破る痛快と、上の歯がむっちりとチーズに触れる、対極の食感が楽しめるからである。
飲み物の相手としては、トマトジュースが、ソースやチーズと共鳴していいと思う。
また赤色が、チーズの黄色に映えて、いっそうおいしく感じさせる。
でも朝食なら、ミルクだな。
同じ乳同士が、朝の爽やかな空気に合う。
夜なら、ピザトーストに塩をはらりとふりかけて味を強めにし、バーボンソーダをあわせるのはどうだろう。
バーボンの甘味が、チーズと出会って、夜を優しくしてくれる。
そういえば大学生の頃つきあっていた彼女も、この店のピザトーストが好きだったなあ。
夜に来て食べたことを思い出した。
彼女は口を少し開けて、細い指でつまんだピザトーストを運ぶ。
かぷり。
ゆっくりと薄い唇が、チーズに抱かれていく。
その姿が妙に色っぽくて、心がかき乱されたことを思い出した。
女性が食べるピザトーストには、艶が宿る。
そうだ今度はだれか誘おう。
細い指の女の子を誘って、この店に来よう。