1986年3月3日。
いつものように会社に出かけようと新宿駅に着いたぼくは、途方にくれた
総武線で新宿駅に出て、同じホームの山手線内回りに乗って原宿に向かう。
これがいつもの経路だった。
乗り換えの、新宿駅10,11番ホームがいきなり12,13番ホームと名称変更されていたのだ。
埼京線が出来たせいである。
まあそんなことはどうでもいい。
悲しかったのは、いつも利用していた店が消えていたことだった。
「田中屋」の売店だ。
ホーム増設に伴う変更で、売店も消えていた。
会社に向かう途中、朝飯や昼飯用として買う二つの名物を、密やかな楽しみとしていた
それが忽然と消えてしまっている。
ソースがうっすら染みこんだパンに噛り付くと、カリッとした存在感のある衣に歯があたり、下品なソーセージの味が広がる。
揚げ立て衣の食感を残した田中屋の「ハムカツサンド」は、逸品だった。
たしか150円くらいだったように思う。
他にはない「田中屋」だけの味として、勝手に名物に指定していた。
もう一つが「鳥めし」だ。
甘辛く煮た鳥そぼろと甘く味付けた玉子そぼろを鳥スープで炊いたご飯の上にびっしりと敷き詰め、グリンピースを飾った弁当である。
おかずは確か、小さい鳥カツと昆布巻き、煮筍だったろうか。
30数年前は300円 1986年当時は400円。
食欲をあおる味の濃さ。
余計なおかずをつめない潔さ。
値段の安さ。
駅弁の良心であり、品川駅「常盤軒」の「きじ焼き弁当」と並ぶ、東京名物駅弁だった。
お金のあるときは、10品ほどのおかずを詰めた「鳥重」600円にして、ささやかな贅沢を楽しんだなあ。
それが簡単には買えない。
残された田中屋の売店は、中央線快速ホームやコンコース内の数店舗のみ。
大変不便になった。
出入り駅内販売業者の悲しさよ。
JR東日本の客を省みない横暴よ。
明治に創業し、昭和32年に「鳥めし」を販売開始し、多くのファンを築いてきた田中屋は、こうして次第に隅へと追いやれていく。
そしてついに1991年。
現NRE、元日本食堂に吸収合併され、単なる駅内販売会社となった。
同時に「ハムカツサンド」も「鳥めし」も消えた。
この日、絶望の縁に立たされ、悲嘆にくれた人が幾人もいたことか。
現在大阪駅にしろ、京都駅にしろ、ビジネスを優先したNREの「全国駅弁統一化計画」が進行しているが、 その端緒は、新宿駅にあったといっても過言ではない。
しかし、復活したのだ。
知らんかった。
2001年に復活したのだという。
「鳥めし」である。
以前の経木風弁当箱に比し、コンビニ弁当風な容器は気に入らんが、 包装紙は同じである。
おかずは、小ナスの醤油漬け、菜の花辛子和え、大根桜漬けに缶詰風みかん。
そのシンプルやよし。
そしてご飯。
うーんこれだよ。