<神戸ディープシリーズ第三弾>
T B Sドラマ「不適切にもほどがある」にはまっている。
時代をさりげなく切り取る名台詞と阿部サダヲの演技にハマっている。
最新作では、阿部サダヲがハラスメントに関して言った、「モラハラとかセクハラとかパワハラとか細かく分類して、解決したつもりになっているだけじゃないの」という発言も良かったが、昭和から戻った吉田羊が、「昭和ってどうだった?」と聞かれて、「なんかやたらうるさかった。イヤホンもマスクもないし、検索もないから、やたらみんな無駄話してうるさかった」という言葉が刺さった。
人間と人間が余計に干渉していた時代というのは、もっと人間らしかったのではないかと。
それは料理にも関係しているかもしれない。
神戸「丸萬」は、昭和のまま止まっている。
入ると「いらっしゃいませ」という女性サービスの声が響くが、厨房奥にいる老主人が。小さく「いらっしゃい」という声が、心に響く。
中華そば(しなそば)と書かれた料理を頼めば、チャーシュー二枚ともやし数本、ネギ乗ったラーメンが運ばれる。
色の澄んだスープは、鶏ガラとうまみ調味料でまとめられ、醤油がない分、すっきりとしている。
そのスープに、細い平打ち麺が馴染んでいく。
しみじみと味が染み渡る。
シナチクや低温調理した豚肉や鶏肉、様々な具がなくとも、安価でうまいものを食べてもらおうという人情が伝わってくる。
それは、会話が溢れていた時代の静かな思いやりかもしれない。
お勘定をし、店を出ようとすると、女性店員が「ありがとうございました」と声をかける。
その後ろで厨房に怖い顔して立った老料理人が、聞こえるか聞こえないかくらいの声で一言「ありがとう」と放った言葉が、背中をそっと撫でるのだった。
「丸萬」中華そば六百円