熊を食べるというと、大抵はロースのしゃぶしゃぶで、たまに熊の手だろう。
それらは脂やコラーゲンの魅力であって、赤身肉の魅力ではない。
ではどこならその真実に迫れるかというと、脚である。
「徳山鮓」では、脚の煮込みを出していただいた
その姿は、完全なギャートルズである。
骨から外し、3センチほどの厚さに切られた肉が、皿に置かれた。
赤身肉の間にコラーゲンの筋が、斜めに数本入っている。
煮込みといっても、赤身肉の食感を失わないほど良い煮込みで、躍動感がある、そしてその中からコラーゲンが、溌剌と歯に食い込む。
よく動いて発達したコラーゲンをかみしめる喜びがあって、噛んでいくと甘いエキスがしたたり落ちる。
これはもう、牛頬肉の赤ワイン煮が逃げ出すくらいの味わいである。
山形「出羽屋」でも熊脚が出された。
「熊カツ」である。
脚の肉に衣をつけて揚げたのだという。
一口カツより小さい、小ぶりのカツだったが、存在感がある。
カリッと衣に歯が当たると、肉にめり込んでいく。
だが一瞬肉は歯を押し返す。
さらに顎に力を入れて噛み込んでいく。
すると中からコラーゲンの甘みが流れ出て、へなへなと顔が崩れてしまうのだった。
これはもう、上等なビフカツも嫉妬してしまう味なのであった。