<機内食シリーズ>第二回
前号まで。
昭和51年、1976年に初めての海外旅行で、機内食の鶏肉の洗礼を受けた青年は、アンカレッジについた。
あのあと機内食では、幾度も鶏肉を食べた。
思うにおそらく、機内食を作られる方は、鶏にトラウマがあるか恨みがあるのだろう。
どの鶏料理も、完膚なきまでに鶏の風味を奪うことに、心血を注いでいらっしゃる(ファーストクラスは違うのかもしれないし、運が悪いだけかもしれないが)。
最初の旅でその洗礼を受けたが、そこは学生、完食した。
しかしアンカレッジに着くと、満腹ながら釈然とせず、初心者が行ってしまう、空港内のうどん屋できつねうどんを頼むという愚行を犯す。
44年たった今でも、あの塩っ辛く、ダシが弱く、柔らかく、ぬるい味が、鮮明に蘇る。
あのうどんは、海外に向かう時ではなく、日本食に飢え、海外から帰って来たときに食べるものなのである。という掟は、その頃知る由もなかった。
アンカレッジから、アムステルダムに向かう中では、二回の食事がサービスされた。
まず昼食。
なぜ、夕食の次に昼食なのかが、まずわからない。。
今回は鶏か魚を選べ、前回の学習から魚を選択する。
周りを見回すと鶏を頼んでいるバカもいて、愚かな奴らよと白身魚のトマトソースを口に運んだ。
だが一口食べて、トマトソース以外の味がないことを発見する。
その他の料理は、自分が作るならマヨネーズをもう少し入れるぞというツナサラダと、そこまで甘くして、なにか不幸でもあったのかと聞きたくなるババロアであった。
そして到着前に朝食がでる。
なぜ夕食、昼食、朝食と逆行しているのか不明だったが、逆回りで飛んでいるということを教えてくれているのだろうと、無理やり納得した。
ラインアップは、クロワッサン、アップルシナモンペイストリー、グレープフルーツである。
爽やかな朝食である。
白身魚を無理に嚥下するために飲んだウィスキーが残る胃袋には、なんとも優しかった。
アムステルダムでは、KLMに乗り換え、ロンドンへ向かう。
飛び立ってすぐに、再び朝食が出た。
人生初めての朝食はしごである。
JALに比べ、大柄で年増のスチュワーデスが、手際よく配るそれは、チーズとハムのサンドイッチ、オレンジジュースにミルクチョコレートだった。
パンはパサついていたけど、おいしい。
なにかこう、シンプルな感じがいい。
それが妙にうれしくて、生まれて初めての二度目の朝食を、きれいに食べ終えた。
この後の旅では、イベリア航空とスイスエアーにも乗った。
いずれも機内では軽食が出されたが、面白かったのは、イベリア航空である。
リンゴか洋ナシ、オレンジが選べるのだが、よほど日本人学生が気に入ったのか、それがスペイン人気質なのかはわからぬが、いくらでも取れという。
しかし小心者の日本人は、自分が多く取ると他者の分がなくなるのではと心配し、結局一つずつしかとらない。
降りる際、カーテンの閉まったファーストクラス(当時はビジネスクラスなんてありません)がざわついているので、隙間から覗いてみた。
すると、スチュワーデス(その頃はCAなんて言葉はありません)とパーサーが、余った果物を競い合いながら、バンバン自分のカバンに詰めている。
こうして日本の大学生は、ものを大事にするという、スペイン人の精神を学んだわけである。
以下次号