「この 鳥の甘ず六三というのは、どんな料理ですか?」
「これは、長唄の杵屋六三郎師匠が、こんなものできますか? とお願いされて、使ったら、大層喜んでくれて、それでなまえをつけさせてもらいました。まあいうてみれば、酢豚の鳥バージョンです」。
そう女将さんが返してくれた。
「では、その六三をいただきまさ」。
「ありがとうございます。お一人なので、半分でもよろしいか?」
「六三半分一つ」。
そう旦那さんに伝える。
無口な旦那さんが、黙々と作り始めた。
鶏の唐揚げ、玉ねぎ、筍、キクラゲの甘酢あんかけである。
むちむちの鶏肉の滋味に、衣の食感、野菜の歯触に、優しいあんがからんで、おいしい。そしてなにより、散りばめられた紫蘇が、爽やかな香りのアクセントを放つところがいい。
一口食べて思わず無邪気に、「おいしい」と言って、笑ってしまった。
「ありがとうございます。師匠がお弟子さんに伝えてくれたので、たくさん出ました。今ではうちの名物です」。そう言っておかみさんも笑った。
「八楽」のすべての料理は、