骨抜き鱧の造り

食べ歩き ,

「誰に聞いても、やり方しらんで、試行を重ねて5年ほどかかりました」。
骨抜き鱧の造りである。
漁師の藤本さんから届いたばかりの巨大な、2.5kgの鱧をさばく。
おろして現れた身は、脂とうま味が充実している証として、白色ではなく、飴色がかっている。
その色艶を見て、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
湯引きをした皮とともに盛られたお造りは、端正な姿をしてらっしゃる。
だがその白き身を噛んで、思わず目が開いた。
しこっ。しこっ。
勃勃たる生命力を誇る肉体が、爆ぜる。
一噛みごとに味を確かめるように噛んでいくと、うま味が顔をもたげ、やがてうま味は、奔流となって舌を流れる。
それは圧倒的ではあるが、どう猛な顔つきとは違う品があって、食べ終わるとうっとりとなるのであった。
だが楽しみはまだある。
皮である。
クルンと丸まった皮もまた歯ごたえはしぶとい。
だがこいつも、噛むほどに甘みがにじみ出る。
噛んでは飲み込む前に、「尾根越えて」のぬる燗を流し込む。
酒と皮が出会って甘みが膨らみ、ニヤリと笑う。
さらに噛む。
酒を飲む。
噛む。
飲む。
酒の海で、鱧が泰然自若と泳いでいく。
松山「馳走や河の」にて