<駅弁勝負> 第19番
今回は、最初から勝ったも同然だった。
郡山駅のシンプルながら、実に良く出来た駅弁と、前菜には国技館の焼鳥を用意したのだから。
国技館の焼鳥は、小さい頃よく祖父が土産に持ってきたのを食べた。
これが実質の焼鳥デビューであり、固い肉や弾む肉、皮等が入り交じって、所々焦げがある焼鳥と、繋ぎに片栗粉が入っているのだろうか、柔らかいつくねは昔のままで、これだこれだと呟きながら懐かしさを噛み締める。
「のりべん」は950円、御飯におかかをまぶし、東北の海苔を乗せて、もちろん御飯の間にも海苔とワカメの佃煮が挟まっている。
塩焼き鮭は浜藤には負けるもののしっとりとして、玉子焼きは出汁の塩梅がすこぶるいい。太目のきんぴら、大きな里芋煮、焼き蒲鉾と手抜きがない。
ほら盤石。負けるわけがないでしょ。
隣は60代後半の老夫婦。
旦那さんは、「近江牛すき焼き弁当」で、奥さんはなんと「柿の葉寿し」と「あなごすし」の二箱を取り出した。
旦那さんは、すき焼き弁当を一心不乱に食べている。
奥さんは優雅に、穴子寿しをつまんでいる。
旦那さんは、半分ほど食べたところで、箸が止った。
あなごすしを食べる奥さんを見ていて、彼女が半分食べ終わるのを待つと、すき焼き弁当とあなご寿しを交換した。
そして銘々に食べながら、柿の葉寿司を間につまむ。
夫婦での仲良き駅弁交換。悦楽の共有。
これにはさしもの焼鳥も、のりべんも勝てない。