高知は、隠れたうどん県である。
そりゃあ表うどん県である、香川にはかなわい。
だが街を歩いていると、うどん屋に出会う。
入ってみると、どの店もおいしい。
たとえばこの高知市内にある「藤家」である。
街並みに溶け込んでいる、日常感がいい。
店に入れば、のんびりとした空気が流れている。
椅子もテーブルも時代が染みていて、親戚の家に遊びに来て「まあうどんでも食べていきや」と言われているような、安堵感がある。
さあまずは、「ぶつかけ」550円からいってみよう。
初めてのうどん屋では、まず冷たいうどんから食べてみる。
そしてその実力を理解した上で、温かいうどんに移行する。
これが私の、うどん屋哲学である。
うどんが登場した。
やや角ばったうどんが、つやつやと輝いて、誘っている。
いい光景だなあ、
つるるるっ。つるるるっ。
モチっと歯を押し返すうどんは、最初はコシを主張するが、口の中で15回ほど噛むと消えていく。
この辺りが、讃岐うどんと違うところである。
讃岐うどんは、徹頭徹尾コシを強調し、顎が疲れるほど噛み、喉でうどんを味わうことを、至上の喜びとする。
だがここのうどんは、そこまでは求めない。
コシは感じさせるものの、中心は柔らかい。
見た目も口も気性が激しくきついが、中身に男を立てる優しさを持つはちきんのようなうどんである。
このぶっかけは、途中から卓上に置かれている柚子果汁をかけるといい。
爽やかさが増して、箸を持つ手が加速して、瞬く間になくなり、お代わりしたくなる。
さあ次は、温かいうどんといってみよう。
ここはこの店ならではのうどん、「タイカレーうどん」といったみた。
おおこれは、グリーンカレー、ゲーンキョワーンではないか。
ズルルルッ。ズルルルッ。
まずはココナッツミルクの甘みとレモングラスやコブミカンの香りがやってくる。
その甘いような酸っぱいような香りが、うどんに合うなあと思った後に、辛味がやって来た。
辛い。相当辛い。
一瞬優しく、隙を見せた瞬間殴られる。
これもまたはちきん女性の気性かなあ思う風情で、自らに秘めていたM体質が喜びだすのであった。