街道沿いにぽつねんと佇む食堂の

食べ歩き ,

街道沿いにぽつねんと佇む食堂の、出来ますものは、熊に鹿、ハクビシンにアナグマ、猪にそば。
目がぎょろりとした店主は60くらいか。熊の味を訥々と、それも徳山さんに話す姿がおかしく、また黙って深くうなずく徳間さんもいいなあ。
さて、恐らく日本で唯一の「熊丼」は、甘辛く柳川風に煮た熊肉で、御飯が進んでたまらぬ丼精神を貫いている。
熊トロ刺しは、親父いわく腰辺りの脂身で、「この融点が低くもう溶けているのがブナの実を食べた熊で、右端がドングリ食べていた熊」。
食べれば、ブナの実は、ほろ苦い香りがして、ドングリは甘い香り。
思わずおかわりすれば、違う部位が出てきて「トロは普段あまりないんだよ。これが最後」という。
〆は「熊鍋」で「汁は飲んじゃダメだよ」という教えに従い肉と野菜だけを食べ、雑炊にしてもらう。ああ、やはり熊の出汁はこの上ない。雑炊を、すすればすするほどに、滋味が膨らんでいく。
これで火がついて、そばがきも注文。
おお、これがそばがきか。無農薬手刈りのそばの実を、ゆっくり石臼で挽いて粉にして作ったというそばがきは、今まで食べたどんなそばがきより野生である。
草のような青々しさと麦のような甘味と、野草のようなほろ苦さが混在した香りが、鼻を包む。
「こりゃあ、改めて来て腰を据えて食べなきゃ行けないね。今日はなかった熊モツ煮とかハクビシンとか食べにこなきゃね」と、徳山さんと契りを交わす。
「後5年したら俺も65歳だからもう店やめようと思ってね。やはり生きもの殺しての商いは、長く続けられん」。ギョロ目で話す親父と約束交わして、店を去る。
富山 五箇山 「高千代」にて。