山代温泉 「界 加賀」

蟹は加熱されたことをまだ知らない。

食べ歩き ,

蟹は、加熱されたことをまだ知らない。
それほどまでにしなやかで、無垢だった。
しめ縄蒸しという。
江戸時代に、囲炉裏の灰の中に蟹を丸ごと突っ込んで焼く料理があり、そのままでは灰がつくので、縄で巻いて突っ込んだ。
それにヒントを得た料理である。
生きた蟹を縄でぐるぐると縛って、蒸す。
縄を介して加熱されることで、蟹に優しく火が入る。
またしめ縄は、事前に海水に浸けてあるので、塩味がほんのりと蟹に回っていく。
こうして蒸し上がった蟹をいただくと、どうだろう。
蟹は、海中で生きていたみずみずしさをまだ残して舌にしなだれる。
甘みにたくましさとはかなさを含んで、静かに消えていく。
命の純粋さを貫いた甘みに、体が溶ける。
最後は甲羅に身を入れて、ミソと混ぜ、常きげん山廃純米を一垂らしして、掻き込んだ。
ああ、いけません。
神様お許しください。
脳みそが、悶えています。

山代温泉 「界 加賀」のスペシャリテである。