静岡県 藪蕎麦 宮本

チョットだけつけてね。

食べ歩き ,

「チョットだけつけてね。辛いですから」
老婦は、せいろ蕎麦を運ぶたびに言われた。
年の頃は70代後半だろうか。
品のあるおばあさんである。
せいろも手挽き蕎麦も40gほどで、草の青々しい香りの中に、ほのかな甘みを潜ませている。
ずるるるる。
蕎麦をたぐる音が、静謐な店内にこだまする。
せいろや手挽きでは足らず、冬限定の「おかめそば」を頼むと、
「おかめ、美味しいですよォ」と、ゆったりした口調で言われた。
おかめそばが置かれた膳の上には、小さなおかめの置物が置かれている。
僕は、湯葉を、かまぼこを、椎茸を、卵焼きを食べながら、ああ今は頬を、鼻を、髪飾りを食べてるなぁと思いながら、蕎麦をたぐった。