茜色に焼きあがった

日記 ,

茜色に焼きあがった皮に、頭からかぶりついた。
「カリッ」。
痛快な音が響いて、歯が、皮も骨も噛みしだいていく。
焼けた皮の香ばしさが鼻に抜け、肝のほろ苦みが広がる。
頭を下にして1時間炙った鮎は、肝が頭に寄って、最初の一口から肝の洗礼に授かれる。
肝の魅力に酔った後は、子だ。
みっちりと詰まった卵のほのかな甘みが、歯と歯の間で弾けていく。
そこを身の淡く品のある滋味がすり抜ける。
自らの脂でパリパリに焼きあがった鮎は、最後の一口、尻尾の先まで香り高く、香魚の誇りを失わない。
「炭からの距離が大事なんです」と、ご主人は話した。
「距離が遠くても近くても、皮にしわが寄ってしまう」のだそうだ。
産卵期、群がる雄ごと獲られた鮎の中にいる貴重な子持ち鮎。
その中で寄りに寄った、130gの巨体なメス鮎。
串を刺し、炭火の周りに立て、方向を変えながらつきっきりで一時間焼く。
自家製の釜をかぶせ、常に送風しながら一時間炙る。
鮎から滴り落ちる体液が蒸気となって、鮎をじっくりと燻す。
こうして子持ち鮎は、風味を一身に凝縮し、成仏する。
新橋「鮎正」の茜焼き。

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