金沢「レスピラシオン」と「コメール」

茄子の節度

食べ歩き ,

最初は静かだった。

小さな茄子の尻を切って口に運ぶと、エキスが滲み出る。

淡い淡い甘みが、舌を流れていく、

噛む。噛む。噛む。噛む。

噛む。噛む。噛む。噛む。

目を閉じて、何回も咀嚼する。

歯と茄子が緩やかな舞曲を踊る。

最初の静けさは、この茄子の節度であり、品だったのだろう。

次第に甘みが膨らみ、強くなっていった。

小さな体に秘めていた、命の気高さが甘みとなって、口を埋め尽くす。

なんというナスなのだろう。

へた紫茄子という名前の茄子は、加賀野菜の一つだが、病にかかりやすく、今では2軒の農家しか作っていないのだという。

朝一番でシェフが農家に行き、もいできたものを、水分を失わないようにオリーブオイルを塗りながら炭火で焼く。

そして蛤のだし餡をかける。

山椒のような香りがするキハダを擦り下ろす。

見た目は地味で、「いいね!」は期待できない姿である。

だがその茄子には、大地の力があった。

食べる僕らの心を震わし、体を幸せで満たす力があった。

夜は同系列のバルへ行く。

ここではスペイン風にフリットにし、蜂蜜をかけてくれた。

カリッ。

衣を突き破ると、柔らかき茄子に歯が食い込んでいく。

その食感の対比がいい。

蜂蜜の甘さの影に隠れた、茄子の甘さがいじらしい。