前号まで、
僕は子供の頃苺を潰して食べていた。
他の人はどうだったのだろう。
そこで三十人近くの食いしん坊に、小さいころの食べ方を聞いてみた。
結論。
すいません、まったくもってわかりませんでした。
コンデンスミルクをかける。牛乳だけをかける。
砂糖だけをふりかける。液体と砂糖の合わせ技。
その上つぶす、つぶさない。
時には丸かじり。完全丸かじり。
計十二組の回答が、年齢にかかわら図、バラバラであった。
しかし四十代で完全丸かじり派は皆無で、三十代では二人、二十代では半数以上が、つぶしたり丸かじりしたリと、二つの食べ方で楽しんでいるようである。
中に中年のイギリス人が一人いて、彼は質問に対して、「なにを聞くんだ」という怪訝な顔をして、当然生で丸かじりさと答えた。
獅子文六は「食味歳時記」の中で、「~味は、日本のそれと大差ないが、ただ、イチゴを食べるときに、スプーンでつぶす人を、見たことがない。誰も、青いヘタをつまんで、少量の砂糖をつけて、口へ持っていく。女性の場合、ことに、似つかわしい。私はフランス人が、ああいう食べ方をして、自然や季節を愉しんでいるのではないかと、推測する」と、フランスの苺食の模様を書いている。
著は昭和四十三年だから、僕が台所で恐る恐る丸かじりしていた頃である。
酸っぱい記憶がよみがえる。
どうやらかの地で苺はつぶして食べないようである。
味は変わらなかったというから、フランス人は酸味に強いのだろうか。
いや、甘酸っぱさこそ果物の魅力だということを、よく知っているのではないだろうか。
日本人には、古来から柿や桃など甘酸っぱい果物が少なかったDNAが組み込まれているせいか、どの果物も甘く甘く改良(改悪?)されてしまった。
甘くなったのはいいが、酸味が失われてしまったように思う。
苺ほど科学的に作られている果物はないそうだが、そのせいか味が平均的で、味に奥行がない苺が多い。
初生かじりをした’一九六五年頃は、酸っぱい奴も甘酸っぱい奴もいたのに、なんか面白味に欠ける世の中になっちまったなあ、と愚痴っていたら、人より浅草にある「みどりショップ」という店を奨められた。
以下次号