芹も相手が猪となると、趣が変わる。
猪に合わせて強烈な資質を発散させる。
場所は京都より北上し、栗尾峠を越えたところにある、登里昭だ。
「ウチは味噌は使わん、ダシは内緒やけど、野性の猪本来の味を生かすように、気ぃつこうとる」。
「アクも取らん。アクも味のうちや」
そういって出された猪鍋には、山椒の葉、三つ葉、春菊とともに、たっぷりの芹が添えられていた。
葉が青々として茎が太く、実に凛々しい。野芹だという。
「この辺りはみんなウチの庭や」。というご主人が、自ら採取してきた芹である。
初雪のような純白の脂をみっちりとつけた猪肉は、口の中で甘く、ほんのりと野性を放ちながら体を上気させていく。
合間に芹を食う。
野芹は、養殖の芹にはない、高潔な香りと奥山の空気を含んだような澄んだ味があって、体を清めていく。
「うまいっ」。と叫べば、
「芹うまいやろ。皆これ食いに来るんや。いや人間だけやないで。猪も大好物や」と、ご主人が満面に笑みを浮かべた。
目を閉じると、山の奥にいた。杉や檜の香り、葉の擦れ合う音、森の冷気、夜空の呟き、猪の熱気が周囲で蠢いていた。
野芹の生命力が呼んだ幻想であった。