町の蕎麦屋に入った。
どの町にでもある、いたって普通な蕎麦屋である。
まずはビールと板わさを頼み、メニューを見ながら楽しむ。
さてなにしようか。
メニュー数が多く、嬉しい悩みを起こさせる。
悩んだ挙句、「中華そば」を頼むことにした。
「中華そばください」と、声をかけると、「はいありがとうございます、中華そばいただきました」と、ご主人らしき人が厨房から応えてくれる。
気持ちが良い。
テーブルの上を改めて見ると、メニュー立てと灰皿、薬味袋と楊枝を入れた小皿が置いてあった。
薬味袋か。
胡椒入れや七味入れの方が、趣はある。
薬味袋では、素っ気ない。
だが町場の蕎麦屋でよく見かける、ミイラ化した胡椒や七味を入れた器では、悲しい。
確かにこの方が、風味は保たれている。
しかも置き方がいい。
ざっくばらんに薬味入れに置いてあるのではなく、胡椒も七味も楊枝も、それぞれに美しい並べ方で配置されているではないか。
途端に嬉しくなってきた。
やがて「中華そば」六百円が運ばれる。
スープを飲む。
うまみ調味料はわずかで、澄んだ味わいの醤油スープがいい。
蕎麦屋らしく、脂分の少ない、すっきりとしたスープである。
麺をすすって目を丸くした。
小麦の香りが少し漂い、歯を押し返すコシを持つ麺ではないか。
「自家製麺ですか?」
店の人に聞いてみたら、そうだという。
再度いうが六百円。
店の方のサービスにも心がこもっている。
フーディーの間では全く話題にすら登らない店だと思うが、こういう店を、いい店と呼びたい。
今度はカレーや蕎麦を頼んでみよう。
東中野にて。