山形県村山「ひつじや」

羊うましあの山。

食べ歩き ,

ホゲットは、どこまでもしなやかだった。
噛むと、もっちりと歯に食い込んできて、身をよじらせながら消えていく。
羊特有の香りはなく、柔らかな滋味だけが広がっていく。
まだ色香をのせていない、少女の気配があって、するするといくらでも食べられてしまう。
愛され、野を活発に駆け巡ってきただろう、純粋な筋肉の躍動がある。
しゃぶしゃぶもジンギスカンも、切られた厚さがいい。
その優しき食感を噛むコーフンがあって、一切れ食べた瞬間にお変わりしたくなってしまう。
しゃぶしゃぶは、手前がロースで後ろがバラ。
脂に透明感が出た頃を見計らって引き揚げ、甘めのぽん酢に漬けて食べる。
肉はもちろんだが、脂の甘みがたまらない。
ジンギスカンは、タン、ハツ、レバーを焼いてから、肉へと向かう。
向かって右がヒレで左がとうがらし。
後は、ハラミに肩ロース。
レバーの甘みに目を細め、ヒレの品に惚れ、ほのかに羊香があるとんがらしに酔い、タンの切なさに口を閉じ、肩ロースのたくましさに杯を重ねる。
野菜やきのこも素晴らしい。
羊コラーゲンスープの中で、甘みを膨らませたニラ、トロトロになったニンニク、そして羊肉の食感と同調する花びらだけ。
ジンギスカンでは、羊脂でコンフィされた、玉ねぎやにんじんの甘いこと。
焦がすように焼いたアスパラ菜、青い爽やかな香りと根に甘みがあるアマドコロ、行者ニンニクや黒大根もいい。
ジンギスカンでは、焼いてもむろんおいしいが、片面を焼き色がつくまで焼き、焼いてない面の上にもやしを乗せて、蒸し焼きにするのが、この優しい羊を最も生かすとの結論が出ました(笑)
山形出身の人が南仏で作る。グルナッシュの自然派ワインや、睡龍の古酒がこの羊による料理とよくあった。