日本橋「てん茂」

素材の旨みだけを凝縮させた、江戸前天ぷらの醍醐味を感じ取れ。

寄稿記事 ,

天ぷらは、すし、うなぎ、そばと並んで、江戸時代から連綿と受け継がれた東京の食文化である。では、その魅力とはいったいなんだろう。
吟味した素材に衣をつけて揚げる。天ぷらを、こういってしまえば簡単だが、すぐれた職人の仕事はそれだけではない。

第一に、素材からどの持ち味を抽き出すのか。そして客が来るまで、いかに魚の鮮度を保つか。卵、水、粉の温度管理。素材の下処理と固体差の見極め。衣の配合、種による衣の厚さ。油温。油への放ち方。種に合わせた揚げ時間のコントロール。そこには素人が到底およばない、幾多の技が込められているのである。

こうした技を込め、天ぷらとはなにかという答えを出してくれるのが、みかわである。

プリッとした弾力は残して芯はやや生に揚げ、優しい甘みと香りをふくらませた車海老。

これほどの味の濃さが潜んでいたのかと驚くきす。歯に吸いつくような食感と甘みが魅了する、肉厚のあおりいか。

小柱一つ一つが半生ながら、衣はサクッと揚げられたかき揚げ。

春の白魚、初夏の稚鮎に銀宝、秋のハゼ。

そして圧巻は、焦げる寸前まで揚げられた穴子。カリッと揚がった衣に歯を入れた途端、こっくりとした旨みが口一杯に広がる。

これぞ天ぷら。

魚の余分な水分とクセを抜き、旨みだけを凝縮させた天ぷらの醍醐味だ。

それは、素材をこう揚げたいという理想が明確に描けているからこそ、できる仕事なのであろう。

もう一軒、東京を代表する天ぷら屋がてん茂だ。

胡麻油の香り高い天ぷらで、精妙に火が通された小柱と海老のかき揚げ、はらりと身がほぐれるメゴチ、脂ののった穴子など格別の質である。

また、夏のあわび、秋の柿や栗など、てん茂ならではの種も見事。

さらには、鍋に全神経を集中して揚げるご主人の凛々しい立ち姿、颯爽と無駄のない連係プレーを見せるスタッフ、細やかな心配りと、心からのもてなし精神が伝わるサービス陣、丁寧な仕事が光るご飯、お新香、味噌汁、明治よりの年月と客の愛情が染み込んだ店内。

ぷらだけでなく、古き東京の料理屋の良心をも伝える名店である。
さて、先に上げた二店よりもう少し手軽にと望む方は、天亭のお昼に出かけるのはいかがだろう。

昼のコースは品数が少ないだけで、江戸前天ぷらの魅力を存分に味わうことのできる、お値打ちのコースである。
最後に、天ぷらは塩か天つゆを準備し、出されたら瞬時に食べる。

それが一番おいしく食べるコツであり、ご主人もその行為に応えてくれるのである。

素材の旨みだけを凝縮した味わいこそ、江戸前天ぷらの醍醐味だ。