精神的に痛んでいたのだろう

食べ歩き ,

精神的に痛んでいたのだろう。
それは生理的欲求だった。
自身が元気になるためには、どうしてもこの店に行かねばならなかった。
「北島亭」救済。
心の底から救われた。
どの皿も、素材が「どうだっ」と、迫ってきて、
他の命を絶ち、命を紡いでいるという実感が湧き上がる。
肉や魚、野菜に漲る生命力が、体の隅々まで行き渡り、
命が充満する。
つぶ貝、アンチョビクロワッサン、牡蠣とバジルのスープ。
タルタルステーキ、白アスパラとアサリ、マナガツオポワレ、
そしてイチボステーキ。
デセール。
意地になって殺人的な量を食べた、
食後、北島さんと話をした。
「これからの日本はロマンを持たないとだめだ」。
彼も憤っていた。
日本人から失われつつある礼節、今のフランス料理の傾向。
それゆえ、これからは、オーソドックスを復活させていくのだという。
それが、「50過ぎて、少しは料理ができるようになってきた」
という北島さんの目標だ。
1週間前
「最近元気がなくてね。元気をもらいに来た」と
斉須さんが食べに来たという。

「あんまり食べすぎちゃだめだよ。特にフランス料理はね」
と送り出してくれた北島さんに
「今夜はもう何も食べません。ここに来ると決めたらしばらく粗食にしてそしてガツンと食べガツンと元気もらうんです」。
といって、二人で大笑いした。