空気を食べる餃子である。
ふっくらと膨らんだそれにかじりつくと、熱々の空気が口の中に流れて、やや遅れて餡がやってくる。
餡と皮の間に空間があって、それが独自の気持ちを生むんだよね。
きっちり包んだら餡がかわいそうだよ。
餡は少ないけど少しでも大きくね。
いきなり餡が現れるより、優しいでしょ。
最初に作った人は、そう思ったのかもしれない。
福島元祖円盤餃子の「満福」も、「餃子会館」も、餡や大きさこそ違えど、空気は一緒である。
空気を包むのだから、皮は優しくしなくてはいけない。
どこも自家製で、作りたてであるが、皮は薄く、柔らかい。
自家製作りたてが“もっちり”とは限らない。
逆にもっちりの方が簡単で、このように薄くやわい皮を作る方が難しい。
「カリッ」。
色好く焼きあがった餃子を噛めば、白菜からの甘い香りがにじみ出た熱々の空気が口に飛び込んで、鼻に抜けていく。
その後の皮は存在感薄く、餡も野菜がほとんどで、主張は控えめである。
だからいくらでも食べられる。
「満福」では、二十代後半の女の子が来て、餃子30個とハイボールを頼まれた。
見ていると、一つ口に運んでは目を閉じて、よくよく味わっている。
そして一個を飲み込む前に次の一個に箸を伸ばして口に入れる。
再び目を閉じて味わう。
こうして2個を食べると、ハイボールを流し込む。
ここには「餃子と私」という、誰にも邪魔されない幸せがある。
あっ、ちなみに「萬福」にライスはない。
もつ煮込みもお新香も、冷奴や湯豆腐も用意されているのに、なぜご飯くらい用意したらいいじゃないのと思う人もいよう。
しかし餃子は主副食だから、ご飯のおかずじゃない。
それはおそらく、昭和23年に創業したお母さんの見識なのだろう