私を食べるの?

食べ歩き ,

ベストは鰆だった。
艶やかに濡れた鰆は、「私を食べるの?」と囁く。
口にゆっくりと運べば、しなやかに崩れて行き、酢飯と舞う。
そうして甘みをそうっと滲ませ、脂のうまみを密かに流す。
その瞬間、皮の凛々しい香りが鼻腔に抜けて、心が惑わされた。
その姿は、どうにも艶っぽく、舌は陥落し、脳みそを撫でて、しばし無言となる。
春の色気を鰆は宿している。
その鰆を、2度から4度で2週間寝かせ、37度に整えてから、23度の酢飯で握る。
鰆も嬉しかろう。
日比谷「鮨 なんば」の握り。