京都「盛京亭」

祇園の良心が灯りを消す。 <京都の平生>56

食べ歩き ,

また一つ祇園の良心が灯りを消す。
操業は昭和26年
常連だった池波正太郎は、こう書いている。
「盛京亭の中華料理は、いかにも日本人の舌に似合う味だ。八宝絲と称する冷前菜、春巻、酢豚、やきそば、炒飯など、何を食べても旨い。中略 旨くて安価で、しかも、このあたりの客の舌によって磨きぬかれた洗練がある」。
カウンター前の厨房で、ご主人が炒飯を作り始めた。
卵をよく溶き、中華鍋に投入すると、ご飯を入れて、何回も鍋を返す。
途中でヘラで叩くようにしてご飯をほぐし、具を入れる。
具は、1.5ミリぐらいの賽の目に切り揃えた焼豚と人参、筍を炒め合わせたものである。
塩、魔法の粉、醤油を入れ、さらに焼豚の煮汁だろうか、小色の液体を入れ、胡椒を振り入れ完成だ。
食べれば米は、舌の上ではらりと舞う。
様々なものを入れているのに、味が丸い。
塩分も旨味も優しく、さらりと食べ終えてしまう。
この辺りが池波正太郎の言う、洗練なのである。
吉兆の創業者、湯木貞一や勝新太郎にも愛された。
「おおきに。ありがとう」。
どこにもない炒飯の味を心に刻み込み、ご主人と女将さんの優しい言葉を背に受けながら、永遠の別れを告げた。
さようなら「盛京亭」

閉店