田原町駅の改札口を出ると、ソースの匂いに誘われる。
出口横の「花家」で、日がな一日、ご主人がソース焼きそばを炒めているせいだ。
昨日も四時という中途半端な時間なのに、つい入ってしまった。
出来ますものは、焼きそばと、おにぎり(一種)といなり、干瓢巻きだけ。
焼きそばは、並350円と大盛450円。
キャベツともやしに青海苔だけというシンプルな焼きそばは、ソースの味が辛すぎずに程よく、麺もコシを感じられる固さで、ふんわり炒められている。
しっとりとソースに絡んだ麺の優しさと、シャキシャキと音を立てるキャベツとの対比が楽しいんだな。
一口食べたとたんに、ああうまいなぁと顔がむずむずしてくる。
シンプルなおいしさ、普通のありがたみである。
注文が入ると、もやしを炒め、あらかじめ炒めてあった焼きそばを注文分だけ炒め、水とソースをかけまわす。コテを返すこと五十回。その間四十秒。再びソースと水をかけ、こてを返すこと五十回。四十秒。
おそらく一日200回近く同作業を繰り返し、一年で6万2千回以上繰り返されていることだろう。聞けばもう六十数年もやっているとの事。
376万回の蓄積の味なのである。
田原町駅の改札口を出ると
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