溜池山王「ビストロボンファム」

牛テールの赤ワイン煮込み

食べ歩き ,

この料理には、世の神秘が隠されている。
なにしろ、目の前に現れた瞬間からして、神々しい。
肉を切ろうとすれば、ほろり、はらりと崩れ、ソースに落ちる。
口に入れれば、ふるふると震えて、舌に乗る。
その途端、混沌となったうまみが広がっていく。
頭が後ろに垂れ、目は空中を見ながら、陶然となる。
肉の滋味、灯を照らす太い酸味、ワインとフォンが境目なく溶け合った凛々しいうまみ。
濃厚でいながら軽やかさがあり、圧倒感がありながらエレガントである。
クードブッフ 牛テールの赤ワイン煮込みには、富山シェフの「誠実」という味が染みていた。
創業されて36年目となるレストランである。
いつもこのような、堂々たるフランス料理がいただける。
だがその日の夜は、僕らしか客がいなかった。
世の中の食いしん坊は(僕も含めて)何やっているんだ。