「焙煎は作曲であり、入れることは演奏だと思います」。
いつも子供のような人なつこい笑顔で、ニコニコとしている『Fika Fika
Cafe」のJames Chen氏は、コーヒーのことを話しだした途端、眼光が鋭くなる。
「コーヒーは作品、焙煎は僕の考え方を表現するものだと思っています」。
Jamesは、2013年度の「ノルディック・バリスタ・カップ」において、�エスプレッソ部門とノルディック・ロースター2013でNO1となり、世界チャンピオンとなったバリスタである。
以前も以後もこの大会では、北欧以外の人物がチャンピオンになったことはない。
「豆にはそれぞれに適した焙煎がある。間違った焙煎をすると、どんないい豆でも力を発揮できないんです」。
チャンピオンとなった「ノルディック・バリスタ・カップ」は、毎年260名の専門家が審査員となって、参加者の技能や哲学を計る大会である。
Jamesが参加した時は、豆の縛りはなく、好きな豆を焙煎して持っていて入れ、審査員に審査してもらったという。
2百数十杯を均一に入れていくことも至難ながら、どんな審査員がいるのかわからないため、好みもわからない。
そこでJamesは、自分が好きな豆を焙煎して持っていった。ケニヤの豆である。
「一番好きなのがケニヤです。天然の風土が素晴らしく、豆の糖分が多い。その糖分を以下に焙煎によって引き上げるかということです。この自分が大好きな豆が、世界でどう評価されるか知りたくて大会に参加しました。そしたら思いもかけず優勝してしまった。自分の焙煎技術が認められたことも嬉しいが、ケニヤの豆が好まれたことがとても嬉しいです」。そう言ってJamesは、鋭い眼光を緩め、屈託のない笑顔を浮かべた。
「チャンピオンになって変わったことですか? それは世界中から飲みにきてくれるようになったことです。でもその分お客様の厳しさも感じる。世界チャンピオンはチャンスをくれた。だからもっともっと自分で努力しなくてはいけないと思っています」。
どのようにしたいと思ってますかと聞くと
「コーヒーは今、安すぎる。いい加減なものと高品質が混在している。人間にとって大切な飲み物は、酒、お茶、コーヒーの三つだと思うんです。でも酒やお茶に比べたら、まだまだ安い。ソテも仕方がない。酒は12000年、お茶は4700年の歴史があるが、コーヒーは、まだ700年の歴史しかない。だからまだ人の智慧が入っている要素が少ないんです。僕はこれをもっと引き上げたい」。
彼が焙煎したコーヒーを飲んだ。
同じコーヒーを、氷を入れたワイングラスとカップに注ぐ。
アイスコーヒーは、一口目から二口目へと変化していく。
マンゴーやパッションフルーツの香りがするコーヒー。カカオ香が薫るコーヒー。
燻製香が漂うコーヒーには、燻製にした竜眼を添え、凍らしたコーヒーにミルクを注いで、次第に溶かしていく。
あるいは黒糖を入れたコーヒー。
どのコーヒーにも、この上のない豆への敬意が滲んでいて、過ごす時間が美しく輝き出す。
最後に、「Jamesにとってコーヒーはなんですか」と、聞いてみた。
「生活です。生活そのもの。僕はコーヒーによって、みんなの生活を美しくしたい」。
純粋で、誠実なこの青年に焙煎された豆がもたらす時間は、思考を深め、垢を落とし、心を広くした。
その幸せを味わいに、台湾まで旅をする価値はある。