比留間シェフの料理には、「ほど」という品がある。
トマト風味でくったりと煮られ、グラチネにされた「但馬牛のセンマイとハチノスのグラチネ」には、余計がない。
以上でも以下でもないトマトの味わいと塩気が、胃袋たちを優しく包む。
ギリギリの味の濃度に留め置いた、精妙な「ほどの良さ」は、どこまでも自然で、食べる人を健やかにする力を持つ。
淡い味わいのセンマイやハチノスに敬意を払って、圧倒的なうま味に仕上げない勇気が、心を清らかにする。
それこそが料理の品格であり、この店を愛す理由である。
恵比寿「ルコック」にて。