「香味屋」のメニューを開くと、いつも悩む。
季節の前菜、フライ類やハンバーグにポークソテー、グラタンにオムライス、ナポリタンにサンドイッチ類。洋食のスターたちが、きらびやかに並んで、「さあどれを食べる?」と誘う。
シワ一つないオムライスは、玉子が主張しすぎず、チキンライスと一体になろうという思いやりが、しみじみとうまい。
途中ウースターソースをちょいとかけりゃ、うま味が膨らみ、下手の味わいに近づいて、さらに食欲をわしづかみにする。
甘みと鉄分に富む、香ばしいレバーソテーは、酒の肴にしたい。
艶やかなデミグラスソースがかけられたポークソテーは、肉汁とソースが溶け合う時間がたまらない。
ホワイトソースの優しいうま味を堪能するグラタン。
丸みのある滑らかな味わいながら、庶民のたくましさも失っていない、ナポリタン。
甘いソースの中から肉の味がたたみかける、ハヤシライス。
切った瞬間に肉汁が染み出て、慌てて口に運ぶ、ハンバーグやメンチカツ。
迷うなら、洋食弁当にすりゃあいい。ぎっしりと詰められた洋食の一品一品には、的確な仕事を施した味わいがあって、胸を弾ませる。
食材の質を吟味し、手間ひまを惜しまない、創業90年来の仕事が生んだ、誠実さである。
かつてこの上のないご馳走であった、古き良き洋食の挟持を受け継ぐ、品徳である。
そして食べるほどに、洋食の贅沢とは、職人の心意気であることを知る味わいなのである。