人形町「人形町今半」

松茸は

食べ歩き ,

松茸は、ケッコウしたたかである。
油や強い香りと出会っても、しっかりと自己主張をする。
例えばフライやすき焼きにしてみると、ほほうこいつは凄いなと思うのである。
肉の脂と119年の割下をまとった松茸に、酢橘を少しかける。
そして笠のほうから齧りつく。
「シャクッ」。かなり煮られていたのに、心地よい音が響いて松茸が口の中に転がり込む。
その途端あの香りが口から鼻に抜けていく。
割下や肉脂の甘い香りに混じって、きっちり松茸の香りを膨らませる。
割下の甘辛さに負けじと、ほのかな甘みも滲ませる。
土瓶蒸しや奉書焼きや直焼きにした時と、同じ香りの強さなれど、どこかくつろいでいる。
自分は高価なだけで、別に繊細や高貴じゃないんだけどねと言っている。
やんごとなきお方が、工事現場で予想外の活躍を見せている。
そんな痛快があって、「松茸食べるならすき焼きだね」なんて生意気な発言をさせてしまうのであった。