神田「まつや」

東京にあんかけうどんはない。<江戸の常日>

食べ歩き ,

冬になると無性にあんかけうどんが恋しくなる。

底冷えのする日に、店に入ってあんかけうどんをすする。

ああ、たまりません。

でも東京であんかけうどんを探すのは、至難です。

蕎麦屋やうどん屋には、しっぽくやおかめがあっても、あんかけを置いている店はほとんどない。

唯一あるのは、老舗の蕎麦屋なのである。

中でもお勧めは、「まつや」だろう。

ここのあんかけは具沢山で、京都で言うところの「のっぺい」になる。

しかし京都と大きく違うのは、つゆが江戸風の甘辛味という点である。

色濃く、味も濃いように感じられるかもしれませんが、その味わいには、こっくりとした上品な深みがあり、これが冷えた体や心を温めてくれるのですね。

中細うどんは柔らかく、あえて主張が強くないところがいい。

甘辛い下地の味が沁みた分厚い椎茸も、卵の甘みが生きた玉子焼きも、江戸ならではの濃さや甘さですが、後味がきれいで、しつこくない。 

これこそが江戸っ子が愛した、垢抜けた色気、粋な味ではないでしょうか。

僕はこの味がしみじみと好きで、燗酒をつけてもらって、あんかけうどんを肴にする。

この味わいだからこそ、酒が恋しくなって、冬の楽しみが膨らむ。

そんな江戸の粋を食べに行きたい・