東京とんかつ会議71回 蒲田「丸一」「上ロースかつ定食2200円」

とんかつ会議 ,

東京とんかつ会議71回 
蒲田「丸一」「上ロースかつ定食2200円」
【肉2油2衣2キャベツ2ソース2御飯2味噌汁3お新香2特記なし合計17点】各項目3点特記1点総計25点満点

 大人気のとんかつ屋である。食べログでの東京のとんかつ屋では、高田馬場「成蔵」に続いての2位の高得点、口コミは絶賛の嵐である。
 店は、上野の「山家」や東銀座の「にし邑」同様、古き良き家族経営の温かみがあり、愛称で店の方と呼び合う常連の方もいて、長く街のとんかつ屋として愛されてきたことが伝わってくる。長蛇の列ができるが、並んでいる時点で注文を取るので、座るとすぐにとんかつが運ばれる。これもまた、庶民派とんかつ屋の心配りだろう。
 この店のとんかつが人気を呼んだのは、その分厚さと量によるところが大きいのではないだろうか。「上ロースカツ」でも堂々たる大きさ、250gはあろうかと思われる。そのカツは置き方が幅の広い方を右にした、他のとんかつ屋とは違ったやり方である。こうすると背脂側が手前に来るので、脂身側から食べてくださいというメッセージなのだろうか。また切り幅もバラバラである。「上ロースカツ」は、肩ロースに近い部分なのだろう、背側の脂が二層になっている。その脂周りが赤い。
 ミディアムレアよりレアに近い仕上がりで、それがまたこの店の特徴である。「丸山吉平」や「檍」ほどではないが、かなりレアに仕上げてある。だが脂に十分火が通っていないので、脂の食感がぶよんとした感じになり、甘い香りも出し切れていない。また、香りも出切っていない。肉自体はきめ細やかな肉質をしているのに、この点が残念である。
 衣はかなり粗く、高温のため揚げ切りはいいのだが、粗い衣が油を吸ってしまい、脂身部分のキレの悪さと一緒になって、後半部分になるとしつこさを感じてしまう。また高温ゆえに、衣にほのかな苦みがある。ラードの香り豊かな衣だけに、惜しい。
 キャベツは太めの千切りだが、甘い。根菜の香り豊かな味噌汁もいい。お新香は、沢庵と胡瓜の古漬けだが、2千以上の定食なら、もう少し色気が欲しい。ソースはかなり甘め。ご飯は柔らかめだが、上々。
 とんかつなので、安くボリュームのあるとんかつ屋が人気になるのは分かるが、それだけに特化して点数を高くつけてしまうと、肉の仕入れと掃除、整形、庫内の温度、油の質と温度、衣、キャベツ、ご飯、味噌汁、新香。そのすべてに全神経をすり減らして作っている職人たち目が向けられないことになる。
 とんかつは、日本が誇る和定食なのである。