旬の歳時記  干し鮑

食べ歩き ,

「レディタン・ザ・トトキ」の十時享氏は、干し鮑をフレンチに持ち込んだ。

試行錯誤を重ねた赤ワインの深紅のソースが、深い艶を解き放つ。

ナイフが、鮑に吸い付くように入っていく。

一噛み。海と太陽と海草の養分が、次々と湧き出て、噛むごとに押し寄せ、圧倒する。

干し鮑の真実が、昇華する。

食べ終えても味の軌跡は引かず、口の中にとどまって、海に差し込んだ光のように、いつまでもいつまでも揺らめいていた。